【短編小説】ねこまどうの憂鬱(第10話)

「そうか・・・あのねこまどうはあなたとの契約を解除したんだね。」

どこからともなく、ふわふわとホイミスライムが近寄ってきた。
コイツは向かいに住んでた冒険者が連れていた仲間モンスターだ。
もっとも、その冒険者はもうしばらくの間姿を見せないが。

「でもあなたはそれで本当に良かったの?」

「良かったのかと聞かれてもどう答えていいものやら・・・。
本人がそれを望んだのだから僕にはどうしようもなかったさ」

「ふうん・・・」

ホイミスライムは何かを考えるように首を傾げている。

「あ、そうだ、これ、あの子から預かってたんだ。あなたに渡してくれって」

ホイミスライムは何か光る小さなものを差し出した。

「これは・・・?メダル?」

「そう、メダル王のところでアクセサリーと交換できるちいさなメダルさ」

「なんでこんなものを・・・しかもこんなにたくさんどうやって・・・」

「”牧場”でアルバイトをして、報酬としてもらって集めてたんだそうだよ。あの子はね”魅了を解除するメガネ”がほしかったのさ。でももう必要ないからって」

魅了・・・?
そう言えば、一度ゆずが敵に魅了されてこちらを攻撃してきたことがあったな。

「そうか・・・ゆずはあの時のことを気に病んで・・・」

「あの子はよっぽどあなたの役に立ちたかったんだろうね」

「でもそれならどうして契約解除なんて・・・」

「さぁね・・・それは自分で考えるべきことだね」

相変わらずふわふわと漂いながらホイミスライムはそう答えた。

「まぁ、どっちにしろ、もうあの子の中からあなたの記憶はなくなってるけどね」

そうだ・・・
契約を解除すると、その瞬間に仲間モンスターの頭から、契約していた冒険者の記憶は削除される。
会得していたスキルや呪文も消える。

解除した後、ゆずはこちらを一度も振り返ることなくどこかへ行ってしまった。
そう、僕の隣りで杖を振り上げ「メラガイアー」を唱えていたゆずはもういないのだ。
あの可愛い「パルプンテ」のしぐさももう二度と見ることはできない。

「まぁ、また別のねこまどうと契約すればいいんじゃない?覚えるスキルや呪文に違いはないでしょ?」

「そうだな、違いはない」

「でももうねこまどうとは契約しないよ」

脳裏に、僕があげたリボンを揺らして喜ぶゆずの姿が浮かぶ。

僕は少し考えたあと、こう続けた。

「僕にとって、仲間のねこまどうはあの子だけだ」

「そうなんだね・・・」

「もっと早くあの子にそれを伝えられれば良かったね」

ホイミスライムは少し寂しそうに微笑んだあと

「それじゃあ、このへんで」

そう言ってふわふわと”自分の居場所”へ戻って行った。

僕は、テーブルの上の「ちいさなメダル」を眺めて溜息をついた。

 
 


気がついたら、この世界にいたという記憶しかあたしにはない。

綺麗に晴れた青い空と、ゆっくりと流れていく白い雲と、そしてどこからか漂ってくる潮の匂い。
少し前に何をしていたのかさえ、よくは思い出せない。

でもこれは・・・

これはなんだろう・・・

あたしは自分の首にかけられている小さな鈴を指でさわってみた。

ねこまどうはみんな、首に鈴をつけているけれど、あたしのはどうやらみんなのものとは少し違うみたい。

だってねこまどうの鈴は音なんかしない。ただの飾り。
でもこれは、なぜだか振ると「しゃりん」ってほんのすこし音がするの。
そしてそれを聞くたびに、あたしはなぜだかとっても

とっても懐かしい気持ちになるの。

これはいったいなんなのだろう。

そして今、何をしていても、なんだかすこし物足らない。
何かを忘れているような気がする。
誰かを待っているような気がする。

でもそれが何だか、誰だかあたしにはどうしても思い出すことができない。

いつか

ちゃんと思い出せる日はくるのだろうか

つづく

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