【短編小説】ねこまどうの憂鬱(第9話)

牧場から出たあたしは、なんだかからだ中に力がみなぎっていた。

嬉しいからそんな気がするだけ?

ううん、違う。

だってあたしは今まで「メラゾーマ」は使えたけど「メラガイアー」なんて使えなかったし、まりょくだってそこまで高くなかった。

でも今は、はかってもらったら1000をゆうに超えていた。
きっとあの牧場で時々食べさせられていたお肉にひみつがあるのだろう。

なんだかへんな気持ち…。

強くなったのはうれしいことだけれど、こんなのあたしらしくない。

でもあたしらしいって?

弱いままのあたしのほうがあたしらしかったの?

あたしにはよくわからない。

だけど…。

「ゆずは強くなったなぁ。すごいぞ!」

そう言って喜ぶあの人を見ていると、あたしが自分自身に感じる疑問や違和感なんてどうでもいいことのように思えてくる。

あの人はつよい仲間が好き。
弱い仲間なんて必要ない。

あたしは弱かったから牧場に入れられたんだ。

だから

もう二度とそんなことにならないように、あたしはがんばってもっともっと強くならなくちゃ。
でもこれ以上、牧場に行かずにどうやれば強くなれるのだろう。
誰かに聞けば教えてもらえるだろうか。

ふと、近所に住む物知りなホイミスライムのことが頭に浮かんだ。
そういえば、あのホイミスライムはどうしているだろう。

ああ、そうだ、わたぼうへのお礼もかんがえておかなくちゃ。

そんなふうにとりとめのないことに思い巡らしているうちに、いつのまにかあたしは眠りの世界に落ちていったのだった。

それからしばらくは、平穏な毎日が続いた。
あたしはあの人とまた一緒にいられるようになってとても嬉しかった。

けれど…。

牧場から戻ってきて、ひとつ気がついたことがある。

いつのまにかモーモンの「モモ」の姿を見かけなくなっていた。
あたしの代わりにここにいて、あの人と一緒に毎日冒険に出ていたんじゃないの?

「モモにはゆずと交代で牧場に行ってもらうことにしたんだよ」

その言葉を聞いた瞬間、あたしはほんのちょっと喜んでしまった。
いい気味だ、ともおもってしまった。
あたしはいつのまにこんなに嫌なねこまどうになってしまったんだろう。

ここに来たばかりのころは、あたしはとても弱かったけれど、ほかの仲間のことをどうこうなんて思ったこともなかったのに。

ときどき、心の中を風が通り抜けてゆく。

さぁぁって音が聞こえる。

いつかどこかで聞いた音。

あれは

どこで聞いた音だったろう…。

あたしはほんとうにあさはかなねこまどうだ。
モモがいなくなったって、仲間モンスターは他にもたくさんいる。

あの人は

最近はまた別の仲間モンスターを連れて出かけていくようになってしまった。
そう、あたしが「牧場」にいる間に、なんだか知らないモンスターがたくさん増えていたのだ。

モモは今、牧場でどんな気持ちでいるのだろうか。
あたしと同じようにさびしかったりするんだろうか。

あの人が、あたしやモモを連れて行かなくなったのは、他にもっと役にたつ仲間が見つかったからなのだろうか。

あたしは

やっぱり役立たずなの?

あの人は

あたしがもうこれ以上強くなれないって思ったのだろうか。

「ゆず」

そんなふうにあたしが物思いにふけっていると、突然あの人が話しかけてきた。

なんだか言いにくそうにしている。

嫌な予感がする…。

「あのね、申し訳ないんだけど、もう一回牧場に行ってくれるかな?」

また胸の中を風が通り抜けていく。

今度は強い強い風。

そしてああこれは…

懐かしい潮の香り。

そうか

やっとわかった。

あたしは帰りたかったんだ。

楽しいことは何もなかったけれど、こんなに悲しいこともつらいことも、他の仲間をうらやむこともなかった、遠い遠いなつかしいあの場所に。

黙っているあたしを、困ったような顔で見ているあの人に向かって、あたしは静かに切り出した。

「お願いがあります。」

 

つづく。

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