闇に堕ちたエル子(第9話-魔法のコトバ)

その日は、たまたま仕事の休日が重なったので、彼と2人で昼間からログインしてレンダーシア強ボス巡りをしようという話になりました。
その頃にはもう「強戦士の書」が実装されていたので、わざわざ現地まで行く必要はなくなり、「強ボス」は以前より気軽にフレンドさんを誘って行けるコンテンツになっていました。

その時彼から、サポを入れて2人で行くのとフレンドを誘うのとどちらがいいかと聞かれました。
私は本音を言えばもちろん2人で行きたかったのですが、当時のレンダーシア強ボスはまだまだ強敵揃いで、下手くそな私と2人だと苦戦するのが目に見えていました。
実際、少し前に2人で行ってかなり迷惑をかけてしまったこともあり、「誰かいれば誘おう」と言いました。

とは言え平日の昼間ですから、私のフレさんで来てくれそうな人は見当たりませんでした。
すると彼が「ちょうど暇そうな人がいたから誘う」と言い、やがて1人の女性がPTに加わりました。
見るとその人は例の3人組の1人でした。
彼にべったりなエル子さんではありませんでしたが、その人も彼とは親しくしています。

私は内心嫌だなと思いつつ「こんにちは」と挨拶をしました。
するとその人はいきなり
「なんだサポかと思ったw」
と言い、それっきり私には挨拶もせずに彼に話しかけていました。

その時点でもう私は「この人感じ悪い」と思ったのですが、特に何も言わずに黙っていました。

やがて彼女は
「なんか○○(彼のこと)いつもと雰囲気違うーw」「いつもそんな真面目じゃないじゃん」などやたら「私たちといる時だけの彼」を強調し始めました。
それが私には何だか「あなたの知らない彼を私は知ってるのよ」と言っているように聞こえてイライラしてしまいました。
ただ、その時点では「私の思い過ごし。先入観があるから変な受け止め方をしてしまうんだ」と自分に言い聞かせていました。

しかし、何かの話題で私が「この人にはもうラブラブの彼氏がいるんだよw」と冗談を言った時に彼女の放った一言で私のイライラは頂点に達してしまいました。
(当時、共通の男性フレと彼はとても仲が良かったので仲間内ではよく2人のことを「ラブラブ」とふざけて言っていました)

彼女は
「彼女じゃなくて彼氏がいるの?w○○(3人組の1人であるエル子)に言いつけないとw」
と言ったのです。

「言いつける」?
私はその言葉で、この人ははっきりと私を挑発しているのだと感じました。
「彼はあなたのものじゃなく、私たちの仲間であるエル子のもの」
と言いたかったのだと。

私は頭に血が上り、PTを解散した後つい怒りに任せて彼にこう言ってしまったのです。
「言いつけるって何?エル子さんと何かあるの?」
正確な表現は覚えていませんが、そのような言葉だったと思います。
もう二度とそんなことは言わないと約束をしていたのに…。

言ったあとすぐにしまった!と思いましたが、後悔しても後の祭りです。
彼はたった一言
「もう無理だ」
と言い、その後すぐにログアウトしてしまいました。

慌ててLINEで「ごめんなさい」と謝罪をしましたが、彼からの返信はありませんでした。
私は居ても立っても居られず、その後も何度も謝罪のメッセージを送りました。
するとその日の夜遅くなってから、ようやく彼から
「しばらくそっとしておいてほしい」
との返信が送られてきました。

私は、私と彼の事をよく知り、いつも話を聞いてもらっていたフレンドさんにこの事を相談しました。
その人によると
「彼は今はあなたの名前を見るのも怖いと言っている」
とのことでした。

私にとっては、どれもこれも単なる軽い嫉妬のつもりでした。
でも彼は私のそんな言葉はすべて自分を責める言葉にしか受け取れなかったのです。

もう無理なのだと思いました。
私の存在は彼を苦しめるだけなのだと。

どうして感情に任せて余計なことを口走ってしまったのか。
あの時どうして2人きりで遊ぼうと言わなかったのか。
後悔の言葉ばかりが頭をぐるぐると巡りました。

それでも、どうしてもどうしてもこのまま終わりにすることが出来なかった私は、間に入ってもらったフレさんを通じて、これまでの謝罪と、彼の方から連絡があるまでこちらからは一切連絡をしないと約束することを彼に伝えていただきました。

数日後、私は彼のブログにパスワード付きの記事が挙げられていることに気付きました。
私は彼から何のパスワードも聞いていなかったので、最初に見た時は他の誰かに宛てたものだと思いました。
けれど、そこに添えられたパスワードのヒントを見て、それは他の誰でもない、私宛てのメッセージなのだと気付いたのです。

実は当時、私と彼との間だけで交わされていた挨拶の呪文のような言葉がありました。
それは2人にしか絶対にわからない言葉です。
たぶん他の人が聞いたとしても何の変哲もない言葉。
けれど私たちにだけは特別な意味を持つ言葉。
彼はそれをパスワードにしていたのです。

夢中でパスワードを入力して中を見ると、そこには、彼の私に対する思いやりのこもったメッセージが長文で綴られていました。

これまで沢山の人との関係を絶ってきたけれど、いつも相手がその後どうなろうとどうでもいいと思っていた。
けれど、○○(私)のことだけは特別で、どうしても手を離すことが出来なかった。

自分の望みは、ただ○○が、自分がいてもいなくても楽しく毎日を過ごしてくれること
笑顔を見せてくれること
たとえこの先自分に相方が出来ようとリアル彼女が出来ようと、大したことじゃないと笑い飛ばして元気に生きてほしい

このような内容でした。
彼からの特別なメッセージはとても嬉しかったけれど、私は内心複雑な気持ちでした。

「たとえ相方ができてもリアル彼女が出来ても」

恐らく彼にとっては単なる例え話だったのでしょう。
けれどその時の私には重かった。
それ以来、ずっとその言葉が呪いのように心に根を下ろし、元々の「見捨てられ不安」に拍車をかけることになるのでした。

なお、そのメッセージは、私がもう一度読もうとした時には、何故か煙のように跡形もなく消えてしまっていました。

魔法のコトバ 口にすれば短く
だけど効果は凄いものがあるってことで
誰も知らない バレても色あせない
その後のストーリー分け合える日まで
(魔法のコトバ/草野正宗)

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