【短編小説】ねこまどうの憂鬱(第5話)

2018年3月8日

目の前にいたのは、昔あたしがいた場所でよく見かけていた魔物だった。
確かこいつは、一見可愛らしく無害に見えるけれど、本当はとても残忍で怖い魔物だったはず…。


そう、こんな顔で他の魔物を襲っているところを見たことがある。

どうしてこんな魔物を…。

「紹介するよ。今日から仲間になったモーモンの”モモ”だよ。」

「ゆずさんですね!モモと言います。これからお世話になります。どうぞよろしくね。」

モモは、そう言うと可愛らしく体を左右にちょっと揺らした。
頭に付けた赤いリボンが一緒に揺れている。

あのリボンは…。

「仲間になったお祝いに、ゆずとお揃いのリボンをモモにもプレゼントしたんだよ。」

あたしのと同じ…。

同じ…。

あれは、
あの日、ここに来た日に、あたしがあの人からプレゼントされたもの。

「僕の仲間には、トレードマークとしてこのリボンを付けてもらうことにしてるんだよ。」

リボンをつけているのは、あたしだけではなかった…。

あたしは

特別ではなかったの?

「それでね、ゆずはもう少しゆっくりできる環境にしばらく移ってもらおうと思うんだ。」

この人は

何を言っているの?

「君たち魔物専用の牧場があってね、そこに行けば他の仲間にも会えるし、美味しいご馳走も食べられる。好きなだけのんびりできるんだよ。だから…。」

あたしは…。

黙って俯いているあたしを見て、あの人はそこで言葉を切った。

「ゆず?」

あたしは

見捨てられたの?

あたしは

もう一緒にいられないの?

「大丈夫!不安だろうけど、行ってみればきっと来てよかったって思うよ。」

何を言われているのか、もうわからなかった。

「あたしは、たとえどんな場所でも
あなたさえいてくれればそこが楽園なのよ。」

本当はそう言いたかった。

だけど、困ったようにあたしを見つめるあの人を見ると、その言葉は喉の奥に押し込めたまま、とうとう口に出すことは出来なかった。

あたしは、あの人に嫌われてしまうことが何より怖かった。

「わかりました。牧場に行きます。」

あの人は、ほっとしたように息を吐きながら、あたしの頭を撫でてこう付け加えた。

「ゆずも大切な仲間だよ。元気になったらまた一緒に戦おう。」

あの人は気付いていない。

いつのまにか私にかける言葉が

「ゆずは大切」

から

「ゆずも大切」

に変わってしまったことに。

その日のうちに、あたしは「牧場」へと送り出された。
あたしがいた場所には、例のモーモンが居座ることになった。

あたしが乗っていた黒い馬にも

あの子が一緒に乗るのだろう。

きっとしっかりと座ることもできずにふわふわしているだけだろうけど。

その光景を思い浮かべてみただけで

あたしの胸は焼け付くような痛みと共に

暗く重い後悔の海の底へと

深く深く沈んでいくのだった。

つづく。

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