【短編小説】ねこまどうの憂鬱(第4話)

2018年3月8日

気がついたら、目の前であの人が倒れていた。
駆け寄り蘇生呪文を唱える僧侶の隣であたしは呆然と立ち尽くしていた。

あたしには、あの事故の記憶はそれしかない。

いつもと同じようにあの人と戦っていた。
いつものようにメラゾーマを…

メラゾーマを…

どうしてあたしは

敵にではなく、あの人に向かって放ってしまったんだろう。

「魅了されてたんだから仕方ないよ。」

蘇生され回復した後、あの人は必死に謝るあたしにそう笑いかけた。

魅了…。

敵の使うそんな技に、その頃のあたしは対抗する術を持ってはいなかった。
だからあの人が言ってくれたように、それは仕方のないこと。

わかってはいるけれど、大切な大切なあの人を自らの手で傷つけてしまったこと、痛い思いをさせてしまったことが辛くて情けなくて、そして何よりまた同じことを繰り返してしまったらという恐怖が先に立ち、それからしばらくの間、あたしはあの人からの呼びかけに応えることができなくなってしまっていた。

あの人は、そんなダメで情けないあたしに「ゆっくり元気になればいい」と声をかけて頭を撫でてくれた。
だからあたしは早く元気になって、あの人の期待に応えられるねこまどうに戻りたいと思った。
でも焦れば焦るほど、心は重たくなるばかり。考えるほどに怖くなって、どうしても「一緒に行く」という言葉が出てこなかった。

情けない
情けない
いつまで経っても下級種族のあたし。

「ちょっと出かけてくるけど、ゆずはのんびりしてるといいよ。」

あの日もそう言ってあの人はあたしを置いて、一人でどこかへ出かけて行った。
あたしはいつものように、重い心を持て余しながら、庭でぼんやり外を眺めていた。

すると、また例のホイミスライムがふわふわ近寄ってきた。

「どうしたの?なんか元気ないみたいだけど。」

あたしは、最近の憂鬱の原因となった例の事件を手短にホイミスライムに話して聞かせた。

「ふぅん、魅了かぁ…。」

ホイミスライムは、しばらく何かを考えているようにふわふわした後こう言った。

「そう言えば、魅了を防ぐ事ができるメガネがあるとか聞いたことあるよ。」

え?

魅了を防ぐ?

ほんとにそんなことが出来るの?

「うーん、詳しいことは知らないんだけど。でもそれたぶん人間じゃないと手に入れられないんじゃないかな。
だって僕らの装備はたいてい人間から支給されてるものだし。」

「わかった、教えてくれてありがとう!」
「ちょっとは元気が出たみたいで何よりだよ。」

うっすら笑った後、ホイミスライムはまたふわふわ向かいの家に戻って行った。

やっぱり少し小さくなったように感じる。

ホイミスライムも気になるけど、それよりも今は魅了を防ぐメガネのことだ。
あの人が帰ってきたら聞いてみよう。
それさえ手に入れられれば、また以前のように一緒に戦える!

あの人と一緒にまた出かけられると思うと、さっきまでの憂鬱が嘘のように消えていき、からだ中が嬉しさでいっぱいになっていく。

だけど…。

あの人が帰ってきた時、あたしのそんなささやかな希望は粉々に吹っ飛び、からだが凍りついたように動かなくなってしまった。

「それ」を見た瞬間、心臓が大きくひとつ鼓動を打ち、あたしの周りだけ時間が止まったように感じたのだった。

つづく。

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