【短編小説】ねこまどうの憂鬱(第2話)

2018年3月8日

「ゆず」
あの人はあたしのことをそう呼んだ。
あたしと出会った瞬間、ぱっとその名前が頭に浮かんだのだそうだ。

「黄色い服を着ていたから?」
あの人にそう聞いてみたけれど、他のねこまどうにはまったく名前など浮かばなかったのだそうだ。

「だから、ゆずは特別」

ねこまどうは下級魔族で、個体差はあまりない。みんな同じ下級魔導師用の黄色い粗末な服を着ているし、魔力も低い。
あたしはそれまで自分が「特別」だなんて一度も思ったことはなかった。

だから時々あの人が言う
「ゆずは特別」
という言葉を聞くたび、何とも言えない昂揚感に包まれてとても幸せな気持ちになる。

特別
とくべつ
トクベツ…

「特別」って、なんていい響きなんだろう。
毎日眠る前には、おまじないのように心の中で何度も「ゆずは特別」と繰り返してみる。
そうすると、胸のあたりがふわんとあったかくなって、とてもゆったりと落ち着いた気持ちで眠りにつけるのだ。
「ここ」に来てからずっとあたしはそんな風に幸せな気持ちで毎日を過ごしていた。

そう、「ここ」。
「ここ」と言うのは、あの人が住んでいるこの家のこと。
そして今はあたしの住処でもある。

この家が建っている場所は、あたしが生まれたところみたいな潮の香りはぜんぜんしないけれど、黄色や赤の花がたくさん咲いていて、大きな木もたくさんあって、なんだかふわふわと甘いお菓子のような匂いがする。
あたしが毎日寝起きする場所は、この家の前庭にあの人が設えてくれたから、あたしはいつも、きれいに咲き誇るたくさんの花や甘いお菓子の香りに囲まれて日々を過ごすことができるのだ。

なんて幸せな毎日。

あの人についてきて本当にあたしは幸せ。
この世の中で、今のあたしぐらい幸せなねこまどうはきっと他にはいないだろう…
なんてことを大真面目に考えるほど、その頃のあたしは満たされていた。

「ゆず、出かけるよ。」
あの人が外に出かけるときには、いつもあたしを連れて行ってくれた。
最初の頃は、あたしは全くの役立たずで、あの人が魔物たちと戦っている時も、ずっとうしろのほうで隠れて成り行きを見ていた。
戦うことが怖かった。

でも少しずつ、本当にすこーしずつ、あの人と一緒にあたしもレベルアップしていった。
今では、ニャルプンテも覚えたし、いざとなればメラゾーマだって使うことができる。

そんなふうに、ほんの少しでもあの人の役に立てることが嬉しくて、一緒にいられることが嬉しくて、
「ゆず、出かけるよ。」
と声がかかるのを、毎日心待ちにしていたのだ。

だけど…
実はあたしには重大な欠点があった。

あたしは攻撃魔法は得意だけれど、回復魔法はからっきしダメで、戦闘で傷ついたあの人を、あたしの力で癒してあげることが出来ない。
だから、パーティの中には、あたしの他にどうしても回復役の誰かが常に必要だった。
それはねこまどう種の特性だから、どんなに頑張ってもどうしようもないことなのだけれど…。

まさかその欠陥のために、それまでのあの人との幸せな日々が突然奪われてしまうだなんて、その頃のあたしは想像もしていなかったのだった。

つづく。

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