【短編小説】ねこまどうの憂鬱(第1話)

2018年3月8日

気がついたらこの世界にいたという記憶しかないあたしは、生まれた頃のことをよく覚えていない。

ここに来る前の思い出と言えば、綺麗に晴れた青い空と、ゆっくりと流れていく白い雲と、そしてどこからか漂ってくる潮の匂いだけ。何をしていたのかさえ、よくは思い出せない。

あたしは、自分の種族が「下級」と言われる部類に属することを知っていた。

もしかすると、すっごくすっごく頑張ったりすれば、もっと上級クラスの魔法使い猫になれるのかもしれなかったけれど、あの頃はそんなことにはぜんぜん興味はなくて、だからと言って何か他に楽しいことがあるわけでもなく、本当にぼぅっとしながら、毎日ただ暮らしていた、そんな気がする。

あの人と出遭ったのはそんなある日のこと。

その頃、あたしが住んでいた場所に、それまでには見たことのない背の高い「まもの」がたくさん出没するようになっていた。

その種族は、肩にツノが生えていたり背中に羽があったり、大きさや肌の色も様々だったけれど、ただひとつ同じだったのは、どいつも皆、あたしたちを「狩る」ことを目的にしていることだった。

だからあたしはそいつらがとても怖かった。

決して楽しい毎日を送っていたわけではなかったけれど、死にたいわけでもなかった。

むしろ死ぬのは怖かった。死ぬのが、というよりは痛い思いをするのが怖かったのだと思うけれど。
だからあたし達「下級種族」はできるだけそいつらから離れて身を隠して過ごした。

だけど、あの人は、そんな奴らとは違っていた。

突然目の前に現れたその人は、変なヒレみたいなものがついているのは他の背の高い種族と同じだったけれど、他の奴らのようにあたしたちを狩り立てることはしなかった。むしろ弱いスライムなんかには当たらないように避けていた。当たってしまった時には襲うことなく逃していた。

そうやって「何か」を探していた。それが何かはその時にはわからなかったけれど、とにかくあたしたちを「狩り」に来たわけではないということがわかったので、あたしは何だかその人に興味を引かれて、恐る恐るうしろから近づいてみることにした。

もちろん警戒はしていた。弱いけれどあたしだって魔法ぐらいは打てるもの。身を守る術がまったくないわけじゃない。いざとなったら魔法を使って相手が怯んだ隙に逃げればいい。

今思うととっても無謀な考えで、その人があたしを「狩る」ことを目的にしていたなら、あの頃の弱っちいあたしなんかあっという間に殺されていただろう。

だから。

神様というものがもしもいるなら、あれは神様の仕組んだことに違いない。あの出会いはきっと運命だった。あたしは今もそう思ってる。

 

それはともかく。
無防備に後ろから近づいた私に気付いて振り向いたあの人は、一瞬驚いた顔をした後、突然にっこり笑って、あたしにこう話しかけたのだ。

「おいで。僕と一緒に旅をしよう。」

 

それが今に至るすべての始まり。

あたしはそのひと言で、たったの一瞬で、その人に恋をしたのだ。
もちろん「恋」なんて言葉を知ったのは、もっとずっと後のことだったけれど。

つづく。

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